夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年

「夜明け前」っていうドキュメンタリー映画を見てきたよ。この前久しぶりに公民館に行ったらいろんな市民団体の自主上映会のチラシがたくさん置いてあって、いろいろ見てみようかと思って。これも65分くらいで短め。


『夜明け前』プロモーション映像(3分30秒)

チラシに書いてあった「我が国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の外に、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」って言葉が、性被害のことを考える時に思うことと完全に一致という感じなので、人権についての問題意識を取り上げたものなんだろうなとは見る前から思ってた。人権感覚って面では夜明け前の状態って今でもずっと続いていると思うわ。主催者の人のあいさつで、このタイトルから連想する島崎藤村の「夜明け前」も精神障害になった人を書いたものだって話があったけど、まだ島崎藤村の本の方は読んだこと無かったので読んでみようかなって思った。「破戒」は読んで、その場の景色がありあり見えるような美文がすごいなって思ったのとその当時の強烈な差別意識とそれへの抵抗を見出す近代意識の葛藤みたいなのが面白かったから、「夜明け前」も読もうとは思っていたんだけど、なんか長そうで一気に読めない感じがして手が出せていなかったのよね。

夜明け前 全4冊 (岩波文庫)

夜明け前 全4冊 (岩波文庫)

 

映画については今から100年くらい前にこの呉秀三って人が「精神病者私宅監置の実況及び其の統計的観察」って内容の論文を出して、当時は座敷牢に閉じ込められていた精神病の人たちの一つ一つの事例をレポして、全国300か所以上の現地調査でいろいろ悲惨な状況になっていることを明らかにして、私宅で個人に面倒を見させようとするのではなくて病院を増やして専門家による看護を進めようとしたってことと、病院の中でも手枷や足枷で拘束していたのをやめて人道的に扱うように改革していったってことを紹介していくもの。当時の「それが当たり前」に対して人権って観点から問題提起して状況を変えていくって、今でもいろいろな面でやっていかないといけないことなんだろうなって思った。でもこの呉秀三って人はセレブというかエリートすぎて、同じ問題意識を持った庶民が実践としてどうすればっていうのはあまり参考にならない感じ。トップダウンでものごとを変えていった立派な人であるっていうのはまあわかったし、こういう改革をやめてしまって状況が元に戻ってしまったとしたらどうなるかっていうのを参照する際に件の論文が100年を経ても有用なのもわかるけど、今の政府みたいにトップが人権に対して鈍感な場合に状況を後退させずにむしろ進めていくために出来ることって何だろうっていうのは疑問のままで残る。作中でも今また拘束具の使用が増え始めたって病院の先生が言っていて、私は拘束が必要なレベルの障害がある人に接したことは無いから、実際対応している人たちには相応の苦労があるんだろうなとは思うけど、トップが強いポリシーを持っていないとすぐ状況が後退するのだと、障害を持った人も含めて一人一人がその人の望むように生活できるようになる日って、まだまだ来ないよねって思った。